海の見える理髪店
海辺の理髪店に若い男が訪れた。「髪型はお任せします」というオーダーに老店主は嬉しそうに調髪に取り掛かり、問わず語りに自分の人生を語り出す。家業の床屋を10才から手伝い、初めて任された仕事は出兵する常連客をバリカンで丸刈りしたことだった。昭和30年代には順調だった店が傾き、店主は酒に溺れ、最初の妻に暴力をふるって離婚されたことも。そんな取り留めのない話をしながら、店主は見事な手さばきで調髪を続ける。だが突然、「人を殺めたことがある」と青年に告白する…。 ――なぜ、青年は海辺の理髪店を訪れたのか? ――なぜ、老店主は自分の人生を語り始めるのか? 老店主の70年分の回想が織りなす奇妙なサスペンスから目が離せないまま、急転直下のラストでささやかな日常の謎が解けていく!